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今こそ知りたい、ホームスクーリング。教育・学びをアンラーンする

 動画編集、執筆、プログラミング。今までは専門的な知識や技術が必要だった仕事も、AI(artificial intelligence/人工知能)を使って気軽にチャレンジできるようになりました。一日単位で新しいツールが世に出てくる昨今、既存の教育・学びに不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

 2022年10月、文科省から「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」が発表されました。全国小中学校の不登校児童生徒数は24万4940人。9年連続増加しており、全児童生徒の2.6%にあたります。

 起業家・孫泰蔵さんは、著書【冒険の書 AI時代のアンラーニング】で「大人こそ、これまでに学んだ価値観や行動様式、思い込みなどを捨て去り、そのうえで新たなものを再学習する姿勢=アンラーン」が必要と説きます。

学校教育や環境が合わないと感じている子どもの人数はネガティブに語られることが多いですが、不登校やホームスクーリングを切り口に、今の子どもたちに必要な教育・学びの場について考えてみたいと思います。
この記事が、教育・学びのアンラーニングのきっかけになれたら嬉しいです。

「不登校」とは?

 文部科学省 は、不登校をこのように定義しています。

「不登校」には,何らかの心理的,情緒的,身体的,あるいは社会的要因・背景により,児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある者 (ただし,「病気」や「経済的理由」による者を除く。)を計上。

令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について

具体例として

  • 友人関係又は教職員との関係に課題を抱えている
  • 遊ぶためや非行グループに入っていることなどのため
  • 無気力で何となく
  • 登校の意志はあるが身体の不調や漠然とした不安を訴えている

を挙げていますが、これらをみて、不登校の要因は子どもや家庭にあると言えるでしょうか。具体例の後に「なぜそうなったのか?」を付け加えて考えてみると、学校をはじめ、周囲の大人も含めた「環境」をその子に合ったものにコーディネートできれば、不登校は防げるように思えます。

同時に、「なぜ不登校と呼ぶのか?」という視点を持つことも大事かもしれません。
登校生とは呼ばないのに、なぜ不登校と呼ぶの? 学校システムを問う高校1年生の挑戦

ホームスクーリングって何?

 ホームスクーリングを直訳すると「家庭教育」ですが、実際はもっと奥深い概念です。先行研究や文科省の記述からひも解いていきましょう。

2000年、熊本学園大学社会福祉学部の吉井健治さんが、「日本におけるホームスクールの可能性と課題―ホームスクールの一事例を通じて―」の中で、不登校とホームスクーリングを次のように比較しました。

ホームスクールとは、親や地域の大人が、家庭や地域を拠点に、学校教育を含む様々な教育資源を活用して、子どもの自己選択を尊重しながら、子どもの教育に積極的にかかわるというものである。それは当然ながら、 登校禁止、家庭内隔離、無責任、放任でないことは明らかである。
なお、不登校とホームスクールは状態像としては区別が曖昧な場合があるが、これらの主要な差異は学校信仰の有無にある。
(中略)そのためホームスクールでは、登校しないことからくる罪悪感、劣等感、自己否定感は弱いのである。(中略)ホー ムスクールの子どもは自由な興味・関心で主体的に行動している。

熊本学園大学社会福祉学部の吉井健治さんが、日本におけるホームスクールの可能性と課題―ホームスクールの一事例を通じて―

2015年の文科省の資料にも、保護者の手記という形で「ホームエデュケーション」が載っています。

ホームエデュケーションとは、家庭を拠点に子どもの個性や人格を尊重し、その興味や意欲を大切にしながら、家庭や地域の教育資源を活用して親が子どもの成長に責任を持ってやっていく学びの方法であり、そのやり方は家庭によって様々です。
(中略)不登校というネガティブな見方ではなく学びの一つの形。
(中略)学びたいことを、学びたいように自由に学べたことで自分に自信をつけ、苦手なことにも、学びの可能性をさらに広げることができた。

文部科学省 不登校に関する調査研究協力者会議 >資料2-3-3 発表資料

2018には、静岡文化芸術大学大学院の鈴木七海さんが日本のホームスクールの現状と課題―家庭を拠点に学ぶという選択―で、当事者への質問紙調査や日米のホームスクーリングの現状を比較し、質問紙調査の結果から、吉井健治さんの記述の妥当性を再確認しています。

2022年にホームスクール&ホームエデュケーション家族会が実施した全国アンケートでも、75%以上の家庭が「子どもの興味や主体性を尊重し自由な学びをしている」と回答していました。

ここまでで見えてくるホームスクーリングは、単に学校に行かない選択肢を指すのではなく地域資源も活用しながら、その子の興味関心を広げながら行う自由な学びであることが分かります。
学校でも学校外でも、その子に合った教育・学びの環境を整えるには、社会の認識をアップデートする必要がありそうです。

ホームスクーリング 日本での位置づけ

 社会の認識をアップデートするには、基本的な情報があると安心です。文部科学省の「参考図表5 各国の義務教育制度の概要」には、「義務教育を家庭で行うことを認めていない」とあります。ホームスクーリングは義務教育には該当しないということです。では、義務教育とはいったい何でしょうか。
同資料には「義務教育については,憲法において,保護者が子どもに普通教育を受けさせる義務を負うことと,義務教育の無償が規定されている。」とあります。
子どもには教育を受ける権利があり、保護者には子どもに教育を受けさせる義務がある、ということです。義務教育とは、保護者が子どもを「学校に通わせる」ことではないのです。

 2016年に教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)が制定されてからは、ホームスクーリングの認知度は徐々にあがっています。特に第十三条には、「休養の重要性」、「学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性」が明記されており、ホームスクーリングは後者として解釈されています。

ホームスクーリング 6種類の学びのかたち

 ホームスクーリングは、保護者が子どもの教育や成長に責任をもって携わる、教育の選択肢の一つなのが分かってきました。具体的にどのような学び方があるのでしょうか。NPO法人日本ホームスクール支援協会では、「学びのスタイル」として大まかに5種類に分類しています。

①School at home(スクールアットホーム)
家庭で学校のように時間割を定め親が教員になって教育をする。

②Learning at home(ラーニングアットホーム
学びの目的が明確であり、それに向かって学ぶスタイル。通信教材やeラーニングを利用する家庭もある。

③Unschooling/Natural Learning(アンスクーリング
子供の興味や自主性に基づいて行う。

④Relax/Eclectic Homeschooling(エクレクティックホームスクール)
①②のハイブリット型

⑤Hack schooling(ハックスクーリング)
徹底した“個”を尊重する教育。
Hackschooling makes me happy | Logan LaPlante | TEDxUniversityofNevada

またNPO法人cobon/合同会社G-experienceは、2016年から
⑥「ハイブリッドスクーリングを提唱しています。年間30日以上、学校以外の地域やコミュニティなどで、子どもたち一人ひとりがその興味や関心に応じて探究する新しい学び方です。

実際には④Relax/Eclectic Homeschooling(エクレクティックホームスクール)が多い実感がありますが、ICTやAIが日常に浸透しつつある今、⑤Hack schooling(ハックスクーリング)を選択するお子さんも増えてくるかもしれません。

教育・勉強の目的は「おもしろがれるようになること」。大人にこそ必要なアンラーニング

 最後に、これからの教育や学ぶ環境について考えてみようと思います。
イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは、「幸福論」の中で「教育は以前、多分に楽しむ能力を訓練することだと考えられていた」と書いています。(國分功一郎【暇と退屈の倫理学 増補新版】P356)
また日本の哲学者・千葉雅也さんは、著書【勉強の哲学 来たるべきバカのために】の中で、「もっといろんなものを肯定的に面白がれるようになる、いままで受けつけなかったものを受け入れられるようになる、というのが基本的に勉強の進むべき道なのです。(P223) と記しています。

勉強は、面白がれるようになること。教育は、面白がる/楽しめるようになる準備なのですね。
であるなら、ホームスクーリングの目的は「その子がホームと思える場で、世界を面白がる/楽しめるようになる準備をすること」と言い換えられるのではないでしょうか。その原動力はきっと、好きなことから広がる遊びや、興味関心から沸きあがる好奇心です。
まるで冒険者のよう。ワクワクしませんか?

そんな冒険者たちに似合う学びの場とは、どのようなものでしょうか。起業家・孫泰蔵さんは、先の著書でこう提案しています。彼らの学びの場は、世界を良くするために

志を同じくする人々によって構成された、助け合いながら自分たちだけで運営していけるコミュニティであり、「アンラーンするために集まるコミュニティ」
年齢問わず、みんなで探究するコミュニティを作り上げること。それがこれからの学校のあり方である

と。
小学生から社会人まで年齢関係なく集まり、正解を求めるのではなく、各々のやりたいことを見つけ・育み・共に学び合う第三ホームルームは、これから求められるコミュニティ像、学校像と言えるかもしれません。
第三ホームルームで、新しい世界を見つけてみませんか?